ミヤルスト・エステートは1693年、ドイツ移民のヘニング・ヒュージングがケープ植民地の総督シモン・ファン・デル・ステルから土地の付与を受け、ファルス湾のわずか5km内陸に農場を築いたことに始まります。「ミヤルスト(Meerlust)」とはオランダ語で「海の喜び」を意味し、夏には南東の海風と夜霧が葡萄畑を冷やし、ゆっくりとした熟成を促します。1757年にヨハネス・マイバーグ家が農場を取得して以来、270年以上にわたって同家が受け継ぎ、現在は8代目のハネス・マイバーグが経営。ケープ・ダッチ様式の荘園と1776年に建てられたセラーを含む農場全体が南アフリカの国家遺産に指定されています。
1975年に自家ラベルでのボトリングを開始。ニコ・マイバーグがボルドーを訪問した際、エールステ川流域の土壌・気候がメドックに酷似していることに着目し、イタリア出身のワインメーカー、ジョルジョ・ダッラ・チアとともに数年をかけてボルドー・ブレンドの研究に着手。1980年ヴィンテージで遂にその目標を結実させ、カベルネ・ソーヴィニヨン70%、メルロー20%、カベルネ・フラン10%によるブレンドを完成させました。当時この試みはまだ南アフリカで3例しか存在せず、真のパイオニアと言えます。1984年にリリースされたこの「ルビコン1980」は国際的に高く評価されました。ワイン名は紀元前49年にカエサルが軍を率いてルビコン川を渡り、引き返せない決断を下した故事に由来し、ニコとジョルジョがボルドー・ブレンドという新たな道を歩み始めた覚悟を表します。ボトルのキャプスルには「賽は投げられた(Alea iacta est)」の銘が刻まれています。
ルビコンを手がけてきたワインメーカーはこれまで3名のみ。初代ジョルジョ・ダッラ・チア(1975〜2004年)、2代クリス・ウィリアムズ(2004〜2020年)、そして現在はステレンボッシュ大学で化学・醸造学・栽培学を修めたウィム・トルーターが2020年から3代目セラーマスターを務めています。
ミヤルストのヴィンヤードはエステート内の4つの異なるテロワールに広がります。北向き花崗岩斜面の「コンパニースドリフト」(力強い構造感)、昼夜の寒暖差が大きい「リバー・テラス」(繊細で果実味豊か)、グレイワッケ岩と頁岩の「クォーリー」(赤い果実と精緻な余韻)、そして南向きの粘土質土壌「ローランズ」(スムースでブラックフルーツが支配的)。この4テロワールからのキュヴェがルビコンに独自の複雑さをもたらします。
2022年は収穫前の冬に平均以上の降雨量を記録し、土壌に十分な水分が蓄えられた状態で生育期が始まりました。夏季も降雨に恵まれた後、熟成期には乾燥した温暖な気候が続いたことでハング・タイムが延び、収量が抑えられた中で最適な熟度での収穫が可能になりました。醸造は品種・区画ごとに別々に発酵し、それぞれ300Lの樽でマロラクティック発酵を完了。8ヵ月の個別熟成後にブレンドし、さらに10ヵ月の樽熟成(新樽比率50%、フランス・ハンガリー樽混合)を経てボトリング。合計18ヵ月の樽熟成です。
深いルビー・レッド。スミレ、熟したブラック・プラム、ブラックベリー、カシスにシダーウッド、ブーケ・ガルニ、ポプリ・スパイスが複雑に重なる香り。口中はフルボディで、フレッシュなダーク・フルーツと丸みを帯びたタンニン、シームレスに溶け込んだオーク、そして引き締まった酸が調和した、バランスと優雅さを兼ね備えた1本です。ティム・アトキンMWは96点を付け、2026〜2035年のセラーポテンシャルを示しています。